毎度、毎度、芸能人の不倫に関する報道がワイドショーの画面や週刊誌の紙面を賑わせています。
不倫した当事者は芸能活動を自粛させられ、激しいバッシングをマスコミやSNS上で受けることとなります。
コメンテーターが不倫した芸能人を執拗に叱りつけたり、不倫した芸能人の相方や妻が謝罪したり、この手の騒動となると、いったいどこまでのことが当事者とその周辺関係者に求められるのかと空恐ろしい気分になります。
芸能人の不倫は世間一般に対する違法行為ではない
確かに、不倫=不貞行為は、婚姻中の夫婦の一方が別の異性と肉体関係を持つものであり、民法第770条1項1号において、離婚事由となり、不貞行為を行った当事者らは、民法第709条の不法行為の損害賠償責任を不真正連帯して負うことになります。
しかしながら、民法上、不貞行為は、婚姻関係がある夫婦間の問題であり、世間一般に対する責任を記載したものではありません。
また、刑法上においては、戦前に姦通罪という不倫を罰する罪は置かれていましたが(ただし、これは妻の不倫のみを処罰対象にするものでした。)、戦後廃止されて、刑法上に姦通罪などありませんので、不倫は犯罪ではありません。
更に、ドラマ、CM、バラエティーなどで、出演していた芸能人の不倫が発覚すると、当該芸能人がドラマやバラエティーを降板させられたり、CMの契約を解除されたりしますが、これは、芸能人とテレビ局、芸能人と広告主の間の契約上の債務(明示黙示を問わず、イメージを著しく毀損させるプライベート行為を取らない特約が認められるのであれば。)不履行違反にあたるか否かというものです。
上記の結果は、不倫した芸能人が一般市民に対する法的義務に違反したからというものでもありません。
不倫報道を肯定する意見の中には、芸能人が公共の電波を使って、広く露出していて、世間一般に対して行動責任があるのだから、道義に反する行為を公にしてバッシングを加えてもよいのだという考えもよく聞きます。
しかし、公共の電波にのって活躍したことが、不倫をしたことにより、違法性を帯びるかと言われれば、そのようなことは全くありません。
もちろん、公共の電波上で、公然わいせつの行為をさらしたり、わいせつな発言を行えば、刑事上の罪に問われますが、不倫自体は、本人が秘しているもので、その行為をさらしものにしているのは、報道対象にしたメディアにすぎません。
そもそも、不倫という概念自体が公然わいせつであるならば、不倫を題材とした映画もドラマも放送できません。
このように見てみると、芸能人の不倫を報道することは何を守るためのものでもなく、その報道に意味があるのかという疑念を私は持たざるを得ません。

不倫の報道は公共の利益と言えるのか?
個人の性的生活や異性交際は、一般の方であろうと芸能人であろうと、他者にさらされることなく内に秘めておけるべき領域のものであることは、自分のことに置き換えてみれば理解されるものではないでしょうか。
これはプライバシー権として憲法上保障された人権として認められています(憲法第13条)。
そして、これを敢えて公にする表現・報道の自由側の根拠は、公共の利益のために、一般国民の知る権利に奉仕することだと理解されます。
では、芸能人の不倫を報道することは、公共の利益であるかと言われると、当該芸能人が政治家のように、公人たる地位に位置する者でない限り、そうとは言えないのではないでしょうか。
相互の利益を比較衡量して
以前のブログにおいて指摘したように、芸能人の私生活やプライベートな事項は、それを公にすることに関して、表現・報道の自由と芸能人個人のプライバシー権といった保護すべき利益相互について、諸事情を考慮しながら比較衡量して、プライバシー侵害の成立を検討することになります。
この点、上述したように、不倫から発生する法的効果は、民法上の夫婦間の問題にすぎず、契約者間の債務不履行の有無の問題でしかありません。
芸能人が不倫をしたからと言って、公共の電波にのって活躍していたことであるとか、ファンが人間性を誤解していたことであるとかについて、当該芸能人が市民に対して違法行為を働いたことになるとか、損害賠償義務を負うことになるとか、そういったこともありません。
刑事上の罪に該当するならいざ知らず、私には、守るべき公共の利益的なものが不倫報道にあるとは思えません。
一方で、不倫やそれの前提たる男女交際の事実は、個人の極めて私的なプライベート事項でありますから、その交際の秘匿・暴露の自由は、当該芸能人の人格的利益として、尊重されるべきだと考えます。
このような比較衡量によっても、芸能人のプライベート事項である不倫の報道は、プライバシー侵害に相当すると判断すべきでないかというのが、私の考えです。
また、不倫報道が当該芸能人の社会的評価を低下させるということであれば、名誉棄損による損害賠償も考えられるでしょう。
法律問題として判断を仰ぐ必要性
しかしながら、芸能人の不倫報道が横行するこの社会状況において、不倫報道された芸能人がマスコミに損害賠償請求訴訟を提起したり、異議を唱えたりするという事例を、近年、私はあまり見ません(事実無根ということであれば別ですが。)。
過去に大物女優が不倫と受け取られかねない事実報道に対し名誉棄損で訴え、損害賠償を得た判決事例があるようですが、判例検索ではその他あまり見当たらないようです。
私が調査できる範囲が狭いだけなのかもしれませんし、マスコミに不都合なその手の判決があっても、マスコミは取り上げていないだけかもしれませんが、そんなことよりも、不倫報道が是認されてきた今までの社会状況や、不倫バッシングをよしとする世論が圧倒的なのが事例の少ない最大の理由でしょう。
芸能人の方々は、この風潮に裁判で異議を呈するよりも、粛々と首を垂れて従うしかないのが現状のようで、お気の毒に思います。
勝手な言い分かもしれませんが、許されざるべきプライバシー侵害や名誉棄損が自由気ままになされている風潮に訴訟を提起するなどして問題提起をしてくれる芸能人の方々が一人でも多く出て、本件が法律問題として日の目を浴びることを願ってやみません。
なお、余談ですが、マスコミに関わらず、個人の方々が、街中でお忍びの芸能人の交際を見かけて、これをSNSなどで、広く世間一般の目に晒すというのも、同様に、プライバシー侵害が大きく懸念される行動ですので、容易に情報発信ができるネット社会では、注意が必要です。
本件を弁護士に依頼すると…
まずは、報道の内容が事実か否かを確認したり、事実でなければ、誤報道であったことを立証するための証拠固めをしたりしていきます。
ある程度、方針や証拠が固まったら、内容証明郵便にて、報道した会社に対し、損害賠償請求や謝罪文の掲載を求める通知を行います。
この段階では、あくまで任意の交渉です。
双方、話合をしても、折り合いがつかないということであれば、訴訟に移行するか否か、追加費用を含めて、依頼者様とご相談させていただくのが通常の流れです。
訴訟となる場合、訴状を作成して訴訟申立をし、弁護士が代理人となって、期日に対応します。
訴訟は、尋問を行うなどの最終段階でない限り、基本的に、依頼者様が期日に出頭される必要はありません。
訴訟では、流れによっては、尋問に至る前後に、裁判所より和解のすすめがあり、和解解決することも多いです。
※エンターテインメントをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。
「恋愛ゲームが歴史ゲームよりもストーリー展開を評価された事案」
