シミュレーションゲームといっても、歴史もの、恋愛もの、戦争もの、スポーツものと多種多様ですが、シミュレーションゲームに共通するポイントがあります。
プレイヤーの能力を一定の数値のパラメーター化し、ゲームのやり込みにより、その数値を上げることで、具体的ストーリーの展開であるとか、目的の達成であるとかを実現する点です。
であるとすれば、このパラメータを最初から高く設定できることを、一部プレイヤーが求めることがあります。
時間をかけて努力するより、ストーリーの先取りであったり、目的到達であったりを容易に行えるからです。
そして、そのニーズに応え、ゲームのパラメーターを最初からあり得ない数値にできるものを提供する業者も出て、これが問題でないかと発展し訴訟となりました。
三国志Ⅲ事件とときめきメモリアル事件
著名なケースとして、歴史シミュレーションゲームでは「三国志Ⅲ事件」(平成11年3月18日東京高等裁判所判決)と、恋愛シミュレーションゲームでは「ときめきメモリアル事件」(平成13年2月13日最高裁判決)というものがあります。
いずれも、あり得ないパラメーターをゲームに反映させることができるフロッピーディスクなり、メモリーカードなりが販売されていた事案です。
著作権法第20条1項は、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」と定め、著作者の著作者人格権としての同一性保持権の保護を図っています。
いずれの事件も、あり得ないパラメーターをプレイヤーに利用できるようにさせることで、意に反した改変を施したとして、ゲーム制作会社がフロッピーディスクやメモリーカード販売業者を訴えました。
パラメーターの変更は、プログラムの改変性を否定する
この点、テレビゲームの特殊性を考える必要があります。
テレビゲーム自体は、著作者が組み込んだプログラムに基づき、ゲームのストーリーが展開されていきます。
このプラグラム自体を改変することは、プログラムの著作権の侵害として、明らかに問題となります。
そこで、パラメーターの数値はプログラムの著作物にあたるのかという部分も重要な論点となりました。
しかし、三国志Ⅲ事件では、パラメーターを変更することについて、詳細な事実認定により、プログラムの著作権性に侵害を与えるものではないと否定されました。
ときめきメモリアル事件の最高裁判決は、この点には触れていませんが、同様にプログラムの著作権の侵害ではないとしているものと思われます。
ストーリー展開の改変があるのか
プログラムの改変性がないとすると、テレビゲームの映像その他のコンテンツを含めたストーリー展開が改変されているかどうかといった部分がポイントとなってきます。
ところで、シミュレーションゲームをしたことがある人であれば、ご存じのとおり、この種のゲームは、プレイヤーに、行動や選択について、ある程度高い自由度が与えられております。
したがって、あり得ないパラメーターを付与されることで、直ちに、そのゲームの有するストーリー展開なりコンテンツなりが大きく歪められるとも言い難い部分があります。
三国志Ⅲ事件もときめきメモリアル事件も似たような事案に見受けられますが、裁判所の判断は分かれました。
前者については、同一性保持権の侵害とは言えないとされ、後者については、同権利の侵害ありとされました。
恋愛シミュレーションゲームと歴史シミュレーションゲームの結論を分けたもの
何が二つの事件の結論を分けたのかは、大変興味深い論点だと思います。
ときめきメモリアル事件では、「本件ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ」とした上で、問題のメモリーカードは、「ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され、ストーリーの改変をもたらすことになる」と判示しています。
確かに、3年間の学園生活を通して、自らを投影したキャラクターを成長させ、卒業式の日に意中の彼女からの告白を受けるというのが、このゲームの主題と言えば主題でありますから、ある意味、オリジナルな文芸性があると言えば言えるのでしょう。
また、当初からあり得ない能力パラメーターを設定できるようにして、学園物として既定されているストーリーの展開を歪めた部分は改変と指摘されても致し方ないのかもしれません。
一方、三国志Ⅲ事件は、「本件著作物のゲーム展開についての具体的な表現内容が明らかでない」として、著作物性を否定しています。
この文言から見て取れることは、三国志Ⅲのゲーム自体が持つストーリー展開のオリジナル性(歴史ものであるだけにオリジナル性は低いとみられます。)であるとか既定性がときめきメモリアルも弱く、プレイヤーの行動や選択によるストーリー展開に自由度や柔軟性が高かったのではないかと思われます。
そして、これが裁判所の判断を分けたのではないでしょうか。
同一性保持権侵害の当事者は誰なのか
なお、ゲームのストーリー展開が改変されたと言っても、その改変されたストーリーを具現化するのは、ゲームをプレイしている個々のプレイヤーであり、上述したメモリーカードを販売した業者ではありません。
しかし、ときめきメモリアル事件の最高裁判決は、同一性保持権を侵害した者として、メモリーカード販売業者の責任を認めています。
メモリーカード販売業者は、個々のプレイヤーがあり得ないパラメーターを設定して同一性保持権を侵害することについて、メモリーカードを販売流布することで、広く幇助したというような理屈なのでしょうか。
となると、個々のプレイヤーが、一個人の家庭内で、自らゲームのパラメーター変更を行い、ストーリー展開を著しく改変するプレイをしただけで、個々のプレイヤー自体もゲーム制作会社から同一性保持権侵害の誹りを受けなければならないのでしょうか。
その辺りの、法的な説明は、判示のみからは見えくるわけではなく、ある意味、結論ありきの判決だったのではないかという批判もあるようです。
※エンターテインメントをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。