スポーツ選手のスポンサー契約について

 

 男子プロテニスプレーヤーの錦織圭選手がテニス選手の中でも、トップレベルの世界ランカーですが、その収入においても、高位置にいることは、昨今の報道などで、皆さんもご存知かと思います。

 

 錦織圭選手の収入について、スポーツ選手であれば、大会による獲得賞金などが中心かと思いがちですが、実際のところ、大部分は、企業とのスポンサー契約によるスポンサー収入となっているようです。

 錦織圭選手のプレーテクニックのみならず、そのキャラクターや外見など、トータル的に見て、多くの企業がスポンサーに名乗りを挙げるほど、魅力的なのだろうと容易に理解できます。

 

 ところで、スポーツ選手が本業とは別に収入の一端としているスポンサー契約というものはどういうものなのか、もう少し詳しく見てみたいと思います。

 

 

企業は広告塔となるスポーツ選手を欲している

 

 スポンサー契約は、企業が著名なスポーツ選手の名前や肖像を利用したり、選手の身に着けるものに企業のロゴを入れてもらう等して、商品の販売促進やブランドイメージの向上を図る一方、企業は、スポーツ選手に資金や物資のサポートをするという契約です。

 

 企業がスポーツ選手をCMなどの広告媒体に利用していたり、選手が企業のロゴがプリントされた競技服を着用したりしているのを実際に目にしたりすることは多いと思います。

 

 スポーツ選手のもつ、ある種のさわやかさや力強さといったイメージが、当該選手の人気と相まって、同選手がスポンサーとなっている企業のイメージアップに大きく繋がっているのは容易に理解でき、企業としては、自社の広告塔となり得るスポーツ選手を欲している側面があるのです。

 

 ただ、スポンサー契約といっても、その目的や方法により、一つの定まった型があるものではございません。

 以下では、その派生的なものを紹介します。

 

メーカーからスポーツ用品の提供を受ける‐用具提供契約

 

 用具提供契約とは、スポーツ用品のメーカーがスポーツ選手にメーカーブランドのスポーツ用品を提供する一方で、スポーツ選手は、提供されたスポーツ用品を競技に利用するという契約です。

 例えば、マラソンのランニングシューズ、テニスのシューズやラケット、ゴルフのクラブ、野球のグラブやバットなどが挙げられます。

 

 人気選手が自社の用品を競技で利用してくれれば、それを目にした観客や視聴者が、同じ用品に購買意欲を持ってくれるでしょうし、それに加え、メーカーのイメージアップに繋がることも考えられます。

 選手としても、自ら調達しなければならない用品を無償で提供してもらえれば経済的メリットがありますし、メーカーが選手と共同で特別モデルの用品を開発してくれるのであれば、自らの理想とする用品を手にすることも出来、大きな利点となります。

 

 なお、用具提供契約は、スポンサー契約の中に一部として組み込まれていることもあれば、総体としてのスポンサー契約は結ばず、用具提供契約のみを単体で交わすこともあります。

 

 基本は、用具提供契約を結んだメーカーから提供された用品を利用することを拘束されることになりますので、仮に、スポーツ選手が別のメーカーの用品を利用して競技をした場合、契約違反として、違約金や損害賠償義務を負うおそれがあるのは注意が必要です。

 

従業員ではないが‐所属契約


 スポンサー契約と似て非なるものですが、所属契約というものがあります。

 スポーツ選手がある企業の所属選手となる契約を結ぶものです。

 よく大手企業のホームページなどで、○○社所属選手とか、○○社所属アスリートとか記載されて一覧掲示されていたりします。

 

 所属と記載されていると、その会社の従業員(会社員)という身分なのかと誤解されることもありますが、実際のところ、従業員ではなく、スポンサー契約よりも強い結びつきをもった契約形態です。

 会社の一般業務に従事する社員選手や実業団選手とは異なります。

 

 ある企業の所属とされることから、他社とのスポンサー契約が制限されることもありますし、企業の催す企画イベントなどへの参加を義務付けられたりすることもありますが、選手には、これに見合う相当の対価が支払われることになります。

 着用する競技服などに、所属企業のロゴを入れたり、報道やCMなどで○○社所属スポーツ選手と記載されることもありますので、企業のイメージアップに大きく寄与することになります。

 

 プロスポーツ選手は、競技を年間通して継続するために、スタッフや練習場所の確保、遠征などの移動を始め、非常に大きな経費がかかりますから、所属選手として、企業から金銭的なバックアップを受け、経費面の心配を少なくして競技に専念できる所属契約は、大きなメリットがあると言えます。

 

チームに所属していても、一個人でスポンサー契約等を結ぶことも

 

 スポンサー契約は、チームスポーツの場合、個々人の選手が所属するチームやクラブといった運営団体そのものと企業が契約を締結している形もあります。

 プロ野球チームのヘルメットやユニフォーム、サッカークラブのユニフォームに企業のロゴがプリントされているのをよく見かけると思いますが、これもそうです。

 

 チームスポーツの場合、別の企業による個々人の選手とのスポンサー契約は、チームやクラブの規約や契約と抵触しないのか、よく調査し、検討することが必要です。

 

スポンサー契約の金銭面ばかりに目を取られるべきではない

 

 このようにスポンサー契約は、スポーツ選手にとって、競技継続を行うにあたって、経済面や物資面などで、貴重なサポートを得られる契約です。

 しかし、スポンサーについてもらうということは、一方で、スポンサーとなってくれた企業との約束事もあり、その違反には、場合によっては、金銭的な損害賠償が伴うこともあるのは、上述したところです。

 

 そこで、実際に、締結しようとするスポンサー契約について、自らの競技や練習に支障が生じるものではないか、その企業がスポンサーになることで自身のイメージが損なわれないか、自らが競技で満足できるスポーツ用品の供給を受けられるのかなど、よくよく、最終目的である競技成果とのメリット・デメリットを勘案して、判断するべき問題だと言えます。

 

※スポーツをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。 

 併せて、ご閲覧下さい。


 「スポーツ仲裁とは一体どんな手続?」

 「プロ野球の年棒制とは」

 「スポーツ観戦中のケガと損害賠償‐ファウルボール訴訟からわかること」

 「ドーピングを指摘された競技者が争うには」

 「スポーツ中の頭部外傷事故に責任は問えるか」

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2020年03月19日