弁護士をやっていますと、借金などの債務整理の相談をよく受けます。
中でも、個人の方の自己破産申立は、相談や依頼を受けることが多い事件の一つです。
自己破産の相談なり、事件処理なりをしていく中で、相談者の方や依頼者の方が知りたがっていることや疑問に思っていることで、よく挙がる質問としとして見えてくることもあります。
そこで、債務整理の中で、自己破産の申立を検討している方々にとって、知っておくとタメになる質問と回答を独断で5選しまして、ご紹介してきたいと思います。
なお、今回のQ&Aは、投稿日時点の個人の自己破産申立に関する大阪地方裁判所における解釈運用を基準にご説明しております。
今後の解釈運用の変更や地方裁判所ごとの運用の差異がございますので、その点はご了承ください。
①裁判所にいかなきゃいけないの?
裁判所に出頭しなければならないかどうかは、事案によります。
自己破産手続の流れについては、同時廃止と管財人選任の概ね2つの流れがあります。
同時廃止と管財人選任の違いについては、次のページをご参照ください。
同時廃止手続に乗っている場合は、書面だけの審査で済むことが多く、ご本人が裁判所に出頭する必要はございません。
ただ、借金を作った経緯に大きな問題があるとか、2度目の自己破産であるとか、何か問題があると裁判所が判断した場合、裁判所に出頭するよう求められることもあります(破産審尋であるとか、免責審尋であるとか言われています。)。
この際は、もちろん、申立代理人である弁護士も同行します。
管財人選任の流れに乗っている場合は、裁判所の出頭が必要になります。
債権者集会期日というものへの出頭が義務付けられます。
これは、選任された破産管財人が破産者の財産の調査や換価を行った結果を債権者らに報告するための期日とされています。
ただ、債権者集会期日と銘打たれていますが、通常の金融機関の債権者らが出頭することはほとんどありません。
このため、うるさい個人の債権者の方がいなければ、裁判官、管財人、申立代理人とご本人のみで執り行われることが常態です。
この期日で管財人の業務が完了していなければ、続行され、次に指定される期日にも、ご本人は出頭する必要があります。
なお、管財人が選任される場合は、申立代理人とともに、管財人の法律事務所に面談に行く必要もあります。
②債務は全てチャラになるの?
自己破産手続において、裁判所は、最終的に、債務者の借金を免責していいかの検討をし、免責を認めるようであれば、免責決定を出し、この免責決定が確定したら、債務者の借金の支払義務がなくなります。
しかしながら、免責決定が出されたとしても、支払義務を免れられない非免責債権というものが定められており、これに該当する債権だけは、支払義務を免れることはできません。
よく挙げられるのは次のような債権です。
租税等の請求権
税金等の類です。国や市町村に払わなければならない公租公課は概ね非免責債権だと思って頂いてよろしいのですが、一部性質上免責される債権もございますので、弁護士とよくご相談ください。
非免責債権となっている公租公課については、債務者の方が債権者である国や市町村と相談して、分割支払にしてもらっていることも多いです。
扶養にかかる債権
婚姻費用であるとか、養育費の類がこれに含まれます。
悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権
悪意をもって、第三者に損害を与えた場合の損害賠償義務を免れることは出来ません。
故意・重過失による生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
上記からすると悪意でない不法行為に基づく損害賠償請求権は免責されることになるのですが、故意や重過失によって生命や身体に被害を与えた損害賠償請求権は免責されないこととして、被害者の方の保護を図ることにしております。
③自己破産をすると周りにバレルの?
原則論として、自己破産は、裁判所、債権者、債務者の間で執り行われる手続ですので、それ以外の周囲の方が知ることになる可能性はありません。
ただ、次の点には注意が必要です。
自己破産手続が行われた場合、裁判所が出す自己破産手続開始時の開始決定と最後に借金の支払義務をなくする免責決定は、官報という国の新聞に公告する定めとなっており、名前と住所がこの新聞に載ることになります。
官報は、法令等の紹介、裁判所の決定などを掲示する新聞で、一般の方が目にすることは通常ありませんので、自己破産の事実が周囲に知られることはないと思いますが、一応、このような掲載があることから、100%、知られない保証ができるものではございません。
また、債権者の中に、勤務先や友人・親族などが含まれている場合、この方々も債権者として取り扱わざるを得ず、裁判所から債権者に対する通知が発送されることになります。
よく見落とされるのは、債務の連帯保証人です。
自己破産手続を行うことで、事実上、債権者から連帯保証人に支払督促がいき、自己破産の事実を連帯保証人に知られることがあります。
連帯保証人になっている方は、将来の求償権を取得する方として、自己破産手続上、債権者の一人としても扱うことになりますから、やはり裁判所から通知が発送されます。
④持ち家はなくなるの?
自己破産は、自己破産申立時の自己の財産の換価をして、債務の支払をし、それでも残る債務の免責を求めるものです。
このため、資産価値のある不動産については、処分されるものだと思って頂く必要があります。
それでは、住宅ローンが貼り着いていてオーバーローンで資産価値がない場合はどうでしょうか。
この場合は、債権者である住宅ローン会社が設定している抵当権に基づき競売申立を行ったりして処分することになります。
いずれにせよ、ご本人名義の持ち家は処分されるものと思った方がよいです。
自己破産を決心したら、すぐに持ち家から出なければいけないかというと、そういうわけではありません。
債権者が競売申立を行うにしても、競売手続申立の準備と競売申立後の手続期間にはある程度の時間を要しますので、転居のために態勢を整える時間は十分にあります。
なお、持ち家を残すための方策としては、住宅資金特別条項付きの個人再生申立を検討したり、資産のあるご親族に買い取ってもらうという方法もありますので、ご依頼される弁護士とよくご相談ください。
特に、個人再生を検討される場合は、住宅ローンの支払を滞らせる前に相談に行かれると解決見込が高まります。
⑤自己破産するには、どの程度お金がかかるの?
自己破産申立にかかる費用としては、代理人弁護士に対する着手金、自己破産申立に必要な実費、裁判所に納める予納金(官報公告費用)が主たるものです。
同時廃止でなく管財人選任の場合は、管財人への引継ぎ予納金というものもかかります。
弁護士に対する着手金額については、法律事務所ごとに定めていることもありますし、弊所の基準を記載して、それが独り歩きしてもいけませんので、ここでは記載しません。
興味がある方は、弊所の弁護士費用のページをご参照下さい。
なお、法テラスご利用可能な方は、法テラスをご利用頂くことも可能です。
自己破産申立に必要な実費は難解な案件でなければ、数万円程度お預りする形が多いと思います。
裁判所に納める予納金ですが、同時廃止と管財人選任では異なります。
令和6年11月現在、同時廃止の場合は、1万1859円、管財人選任事案では、1万5499円です。
管財人選任事案では、これに管財人に対する引継ぎ予納金21万6000円(一般管財事件の場合)の支払が必要です。
裁判所に納める予納金や管財人への引継ぎ予納金は、法テラスをご利用される方でも、法テラスの立替援助の対象ではありませんので(生活保護の方は援助対象ですが。)、何とかご自身で工面する必要があります。
管財人が選任されるかどうは、個人の自己破産手続において、費用の多寡を分ける最も大きな要因だと言えます。
※借金をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。