土地を購入して自宅を建てる場合に、自宅に引き込む水道管やガス管など(以下「導管」といいます。)をどのように給水元や排水先につなぐかは重大な問題です。
土地の形状によっては、自らの土地だけでは給水元や排水先に接続できず、隣地などを経由しなければどうにもならない状況というのもあるでしょう。
また、古くから所有している実家の土地建物を相続している場合では、当事者が知らないままに、隣地の敷地内を導管が通過していたことが判明するということもよくあります。
実際、自らの所有地でない隣地に対して、導管を引かねばならなかったり、既に引かれていたことが判明してトラブルになったりした場合、隣地にこれらの導管を設置する(又は、していた)ことは、正当化できるのでしょうか。
まずは、隣地の所有者の同意を得られるか検討する
土地の所有権を有する人は、権利濫用とならない限り、原則、独占排他的に、その所有地を利用できます。
したがって、隣地の所有者が別の人であった場合、この土地に、導管を引くことは、この土地の所有者の承諾がなければできません。
そこで、隣地の所有者の人と交渉して合意を得、その隣地に導管を設置するための権限を取得する必要があります。
合意に基づくものとして考えられるのは、まず賃貸借契約です。
導管を引く土地部分について、賃料を支払って利用させてもらうというものです。
また、隣地の人が賃料までいらないよということであれば、無償で土地部分を借りるという使用貸借契約を結ぶことも考えられます。
上記は、いわゆる貸し借りというものになりますが、これとは別に、地役権というものを設定するという方法があります。
地役権とは「設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利」(民法第280条前段)と規定されているとおり、ある一定の用途のための他人の土地上の利用権で、土地所有者と利用者の間で、対価を払うなどして地役権設定の合意をすることができます。
典型的に想定されるのは、通行地役権といったもので、他人の土地上を通って、自分の土地に入るための通行部分に地役権を設定することです。
今回の事例の場合は、導管設置の地役権といったものになるでしょう。
民法の囲繞地通行権等の類推適用
それでは、隣地の所有者が使わせないという態度で譲らない場合、導管設置を求める側は、隣地の所有権による独占排他的支配に対し、どんな時でも隣地に導管設置をすることができないのでしょうか。
この点、民法は、導管ではありませんが、通行に関して、隣地の所有者の所有権を一定程度制限する規定を設けています。
囲繞(いにょう)地通行権といいます。
自らの所有する土地の周囲が他人の有する土地に囲まれている場合、囲まれている土地を「袋地」と言いますが、この袋地の所有者は、自らの土地と公道を出入りするには囲んでいる他人の土地(これを「囲繞地」といいます。)を通らざるを得ません。
この場合、袋地の人は自らの土地に出入りするために、必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ない部分を通行することができると民法で定められており、その権利が囲繞地通行権です。
他人の土地を通行することに対しては、一定の償金を1年に1回支払わなければなりませんが、この権利を有する場合、隣地の所有者の了解がなくとも、他人の土地を通行することができることになります。
囲繞地通行権はあくまで通行に関するものですし、通行のための通行路の位置が必ずしも導管における導管路と一致するものではありませんから、囲繞地通行権に基づき、直ちに導管設置が認められるというものではありません。
しかし、導管設置は、囲繞地を通行する際の事情とも類似しますし、実際に導管設置を認めないことによる不都合性は明らかです。
このため、判例は、上記の囲繞地通行権をはじめとした民法の相隣関係の規定や水道法、ガス法の相隣関係の諸規定の精神などを持ち出して、導管の事例に類推適用したり、総合考慮するなどし、袋地所有者の囲繞地に対する導管設置権や導管使用権を認める運用をしています。
時効による取得は認められるのか
上記では、袋地であり、導管をこれから設置する場合ということで説明してきましたが、それとは別に、既に隣地に導管が引かれていて、相続などで引き継ぎ、後の代になった当事者らがその事実を知ったが、隣地と袋地の過去の所有者の間で合意もなければ、袋地にも該当しないという場合はどうでしょうか。
このような場合、導管により、自らの所有地の侵害をされている隣地所有者は、導管設置をしている土地の所有者に対し、隣地所有権に基づく妨害排除請求権を行使し、導管の撤去を求めることができることになります。
一方、導管設置者側は、袋地でないとすれば、上記の判例のような袋地通行権の類推適用による導管設置権を主張することはできないでしょう。
そこで、導管部分について、長年、他人の土地の一部を占有利用してきたことをもって、この土地部分に対する所有権や導管地役権を時効取得したという抗弁をすることが考えられますが、これはなかなか認められません。
取得時効が認められるためには、いろいろな要件が必要ですが、その中でも、公然と土地部分を占有することが要件の一つになっているからです。公然とは、客観的に外部から把握できる状態ということです。
しかし、水道管やガス管は、地中を通管しているもので、公然性を有しないものと考えられます。
したがって、公然性の要件だけを取ってみても、時効取得の主張をすることは事実上困難であるということになります。
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