結婚を前提でお付き合いをしているカップルは、世の中にたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
結婚に向けて、婚約指輪を渡したり、双方の両親に挨拶に行ったり、友人たちに婚約披露したり、式場の予約をしたり、主婦(夫)専業するために仕事を退職したりと、様々な段階があるのではないかと思います。
この結婚に向けた動きが、合意でならよいのですが、一方の婚約相手によって破棄された場合、慰謝料請求や損害賠償請求の対象になることがあります。
婚約破棄が慰謝料等の請求対象となるためには
婚約破棄の慰謝料等を求めることができるのは、どういう場合かということになりますが、過去の判例が参考になります。
「当事者がいずれも高等学校卒業直後であり、男性においてなお大学に進学して学業を継続しなければならないときに肉体関係を結ぶに至つた場合でも、将来夫婦となることを約して肉体関係を結んだものであり、その後も男性において休暇で帰省するごとに肉体関係を継続し、双方の両親も男性の大学卒業後は婚姻させてもよいとの考えで当事者間の右の関係を黙認していたなど判示の事情のもとで、男性が正当の理由がなくて右女性との婚姻を拒絶したときは、右女性は婚姻予約不履行による慰藉料を請求することができる。」(昭和38年12月20日最高裁判決裁判要旨)
上記最高裁判例から見るところ、裁判所は、婚姻の約束を双方で約したことであるとか、肉体関係の有無・継続性であるとか、双方の両親といった第三者が婚約を把握し得る状況にあったかであるとか、この辺の各種事情を酌んで、婚約破棄による慰謝料の請求を認めているようです。
口頭での約束で、もちろん、婚姻予約は成立するものですが、慰謝料が請求できるには、やはり、婚約があったと裁判所を納得させ得るある程度の客観的な事情と併せて、婚約破棄された一方に婚約破棄による精神的苦痛が生じるとみなすに相当な交際の程度が必要であろうと考えられます(最高裁判例の事案であれば、双方両親の黙認と肉体関係の継続)。
したがって、婚約破棄の慰謝料を請求する立場から言えば、婚約や交際の内容がどの程度まで進んでいたかをどれだけ多く事実説明して立証していけるかがポイントになってきます。
一方的な破棄に正当な事由がないことも必要
また、婚約の破棄は、一方が婚姻を希望し続けていたもう一方に対し、一方的に婚約を破棄してくるものですが、慰謝料請求ができるためには、この破棄の申入れに、正当事由がないことが必要です。
正当事由の典型例は、婚約を破棄される方の浮気などが挙げられます。
浮気をするような相手との婚約は破棄したいと思うのは当然であり、こういった正当事由があれば、一方的な破棄であっても、婚約破棄の債務不履行性又は不法行為性がなくなるとみてよいでしょう。
他にも、婚約後の相手の言動、新たに発覚した事情などで、婚約破棄をしても致し方ないというものがあれば、これもまた正当事由アリとされることになるかと考えられます。
一方で、憲法第14条の平等原則で示されている「人種、信条、社会的身分又は門地」を主たる理由とするような婚約破棄は基本的に認められないと考えるべきでしょう。
このように、婚約破棄の慰謝料の請求が認められるには、破棄された方に重大な落ち度がないことが必要となります。
どのような支払が求められるのか
婚約破棄で破棄された当事者が相手方に求められるのは、原則慰謝料の請求です。
婚約を破棄されたことにより、精神的苦痛を負ったということで、慰謝料の支払を求めていきます。
ただ、慰謝料額は、なかなか相場を見極めるのが難しく、結局のところ、婚約がどの程度まで進んでいたか、その婚約によりどの程度の金銭的支出がなされていたか、婚約破棄の不誠実性がどの程度かなどを総合考慮して判断しているようです。
精神的苦痛に止まらず、実際の金銭的な損害が生じていた場合、慰謝料以外に、これを請求することも事案によっては可能です。
例えば、婚約破棄をした方に結納金の支払をしていたような場合、この結納金の返還が求められることになります。
結婚後の新居の準備費用や婚約指輪の購入代金を破棄された方が負担していた場合、これらの費用も考えられる損害になります。
また、結婚を間近にして一方が専業主婦(夫)となる約束をした上で、退職をしたにも関わらず、婚約破棄された場合、退職しなければ、将来得られていたであろうとする利益分(逸失利益)を請求することも検討できます。
このように、婚約は、それが成立したと認められるものであれば、双方、遵守しなければならない約束であり、守らないと、法的な責任を負うこともあります。
結婚の約束をされる際は、慎重にしなければなりませんね。
※男女関係をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
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