マンションの管理組合の理事をしていると頭の痛い問題の一つが、滞納管理費や滞納修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)の回収です。
理事と言えども一区分所有者であり、滞納している区分所有者と同じマンションに居住していることが通常でしようから、非常に神経を使うことになります。
一方で、マンションの運営や修繕のために、徴収していく管理費等については、各区分所有者が自らの負担部分を遅滞なく支払うべきであり、これを怠り、支払を免れることがあるとすれば、他の区分所有者は当然不公平感を持たざるを得ません。
また、管理費等の滞納の多発・放置は、マンションの適正な管理運営を揺るがす事態です。
このため、手続に則った滞納管理費等の速やかな回収が不可欠とされます。
書面等による督促
マンションの滞納管理費等の回収の第一手は、書面等による督促です。
滞納している区分所有者に滞納の事実を知らせ、滞納解消を促します。
段階を踏んで督促書面の記載内容を厳しくしていくということが考えられます。
督促については、一般論として、3か月以内に督促することが滞納解消に効果があるとのデータもあるようです。
滞納管理費が積み重なって金額が上がれば上がるほど、滞納者はお手上げとなって、支払う気もなくなるでしょうから、人間の心理としては当然でしょう。
督促は、一番手っ取り早い方法となりますが、これでは埒があかない場合、法的手続を検討することになります。
支払請求訴訟と強制執行
最初に考えられる方法は、滞納管理費等の支払請求訴訟を提起して、判決を取得し、判決に基づいて、滞納区分所有者の資産に強制執行を行うことです。
強制執行については、滞納区分所有者の強制執行先が判明している必要があります。
勤務先がわかれば給与債権を、預貯金の口座がわかれば、同口座などを強制執行します。
しかし、こういった有効な執行先がなければ、判決も絵に描いた餅とならざるを得ません。
そこで、滞納区分所有者の資産として真っ先に思いつくのは、区分所有しているマンションの居室そのものです。
マンション管理に関して定める法律は区分所有法(正確には、「建物の区分所有等に関する法律」と呼びます。)となりますが、区分所有法は、次のような手段を規定しています。
区分所有法7条に基づく競売
区分所有法7条1項は、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(滞納管理費等の請求債権が含まれます。)について、滞納区分所有者の区分所有権(マンションの居室の所有権)に対する「先取特権」という担保権を付与しています。
先取特権が付与されているということは、これに基づいて、管理組合は、滞納区分所有者のマンション居室を競売にかけることができることになります。
無剰余取消の問題
理論的に言えば、こういうことなのですが、競売にかけると言っても、現実的な問題があります。
それは、滞納区分所有者の多くが、マンションの区分所有権にオーバーローンの住宅ローン抵当権など、優先する担保権を設定されていることです。
このため、上記条項に基づく競売申立を行っても、管理組合への配当見込がない場合、裁判所は、競売申立を取消してしまいます(これを無剰余取消といいます。)。
特定承継人への請求
実は、滞納管理費等の債務については、競売の買受人などの新しい区分所有者(これを「特定承継人」といいます。)が元の滞納区分所有者から承継するとしています(区分所有法8条)。
したがって、無剰余執行であっても手続を進めてもらえて買受人が出るのであれば、この買受人に滞納管理費等を請求するという手段もあるのですが、上述した法7条による競売では、無剰余執行は取り消されるので、競売を進められません。
区分所有法59条に基づく競売
そこで、区分所有法59条に基づく競売という手法が残されています。
「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその行為を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」、訴えをもって問題のある区分所有者の区分所有権などを競売できるとする規定です。
要件が厳格なので、上述したような滞納管理費等の支払請求訴訟の判決に基づく強制執行の不奏功や競売手続の無剰余取消の事実を経た上で、申立を行うということになります。
同条に基づく競売については、区分所有権のはく奪を趣旨としていることから、無剰余であっても、競売が取消されることはありません。
したがって、この場合には、競売が進められ、新しい買受人が見つかれば、この特定承継人に滞納管理費等の支払を求めることも出来るようになるのです。
最後に
滞納管理費等の大枠での請求方法は以上のとおりですが、管理組合が単体で行える方法は、現実的に、督促までではないでしょうか。
それより先の法的手続となりますと、大変困難を伴いますので、まずは専門家のアドバイスを仰ぐことが不可欠だと思います。
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