賃貸マンション相続をめぐる諸問題

 被相続人が生前、賃貸マンションなどの収益物件を所有していることも多いかと思います。

 賃貸マンションは、事案によっては、投資の側面もありますし、収益が安定しているのであれば、継続して収入が見込めるというメリットもあります。

 このような賃貸マンションをご両親などが所有されていて、亡くなった際に複数人の法定相続人がいて、遺産分割の問題で困ることも多いかと思います。

 

 そこで、本稿では、収益物件を相続した際の遺産分割で発生する諸問題について、触れていきたいと思います。

 

 

遺産分割が完了するまでの賃料は誰のもの?

 

 収益物件については、被相続人が死亡後も毎月の賃料収入などの収益が発生していきます。

 しかし、相続が発生しても、法定相続人が複数いると、遺産分割が完了しない限り、収益物件が誰に帰属するかは決まっていません。

 

 それでは、その後に遺産分割が完了して、収益物件を取得した人が遺産分割完了前までに発生した賃料等を取得することになるのかと言えば、そうではありません。

 

 平成17年9月8日最高裁判決は、相続発生から遺産分割完了までの期間に発生する「金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」と判断しています。

 被相続人死亡後に発生する賃料債権は、被相続人死亡時に存在した相続財産ではなく、法定相続人らの共有状態の収益物件から発生するので、それぞれの相続人がそれそれの相続分(共有持ち分)で確定的に取得するというものです。

 

 このため、遺産分割未了時の賃料等の収益は、それぞれの法定相続人がその法定相続分で取得する権利を有していることになります。


 よくある事例では、相続人のうち一人が収益物件の賃料を全て自分のものにしていることがあります。

 この場合、他の相続人は、独り占めしている人に対して、自らの法定相続分で計算した賃料の権利を主張することができます。

 この点、賃料を独り占めしている人が収益物件の管理費用といった諸経費を負担している場合、賃料収入からこういった諸経費を控除した上で、各自の法定相続分を乗じて、取り分を計算する必要があります。

 

 なお、遺言書で収益物件を取得する相続人が指定されているときは、その指定された相続人が収益を得られることになります。

 また、遺言書で相続分の指定がされている場合は、遺産分割完了時までの賃料の取得割合は、法定相続分ではなく、指定された相続分となります。

 

被相続人死亡時に残っていた未払賃料の請求権は?

 

 上述したところは、被相続人死亡から遺産分割完了までに発生する賃料に関する話でした。

 それでは、被相続人が死亡するまでに借主が滞納していた未払賃料について、その請求権の取扱はどうなるのでしょうか。

 

 こういった未払賃料については、被相続人死亡時に生じていた未払賃料請求権というべきものですから、当然に、相続財産となり、遺産分割協議において、遺産分割されることになります。

 

収益物件にかかったローンは誰の負担?

 

 収益物件建築時、購入時、又は大規模修繕時などに、被相続人が多額のローンを負って亡くなっている場合も多いかと思います。

 このようなローンを負いたくない相続人は、収益物件を引き継ぐ意思のある相続人に収益物件を取得させれば、ローンの負担もなくなり、一安心と思うかもしれません。

 しかし、遺産分割協議の結果、収益物件を取得する相続人がローンの責任を全て引き受けることになり、その他の相続人はローン債務を免れるということには直ちになりません。

 

 被相続人が負っている相続債務は、相続により、法定相続分で各相続人に承継されることになっています。

 相続人らの間での遺産分割協議などの合意によって、その債権の債務者が勝手に変更されることはありません。

 これは、債権者の立場になってみれば、当然のことかと思います。

 

 したがって、収益物件を取得する者にローンの負担も全て引き受けさせたいということであれば、遺産分割協議と並行して、ローン債権者などの金融機関と交渉し、収益物件を取得する者が債務全額を負担し、その他の相続人は債務を免除されるという合意(これを免責的債務引受と言います。)を取り付ける必要があります。


収益物件の評価の問題

 

 遺産分割において、不動産の評価はもめる要素の一つです。

 一物四価とも言われるほどに、ただでさえ不動産の評価方法には複数の手法があり、どれを採用するかでも争いとなるところ、収益物件となると、将来の収益といった予測の難しい要素が積み重なり、評価をどうするかで更に紛糾することになります。

 それぞれの相続人が、不動産鑑定士を用いて厳密な鑑定書をそれぞれ作成し、突き合わせることもあります。

 

 しかし、評価でもめて難しいからと言って、安易に、収益物件を相続人らの共有のままとした遺産分割をまとめるのも問題です。

 

 共有となった収益物件の管理をしていくことは、その賃料の帰属、収益物件の管理方法、運営方法などで、都度、相続人らの間でトラブルが生じることが予測されます。

 したがって、共有物件の単独取得の遺産分割が難しい案件では、収益物件を第三者に売却することとして手放し、その売却益を遺産分割するといった換価分割の手法を検討されるとよいかもしれません。

 

※相続・遺産分割をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
 併せて、ご閲覧下さい。

 

 「被相続人の生前に相続放棄はできません。」

 「お墓や仏壇は相続と別になります」

 「自筆の遺言を見つけたら、必ず検認を」

 「相続人のいない相続財産はどこへいく?」

 「相続放棄をした後はどうなるのか?」

 「相続での使途不明金の争い方は?」

 「兄弟姉妹の遺留分はありません」

 「祖父母の相続放棄検討中に親が亡くなったら‐再転相続」

 

 

 

 

2024年07月04日