中小企業の場合、会社の株式の所有者は、オーナー株主が持っている以外には、オーナーの知り合いであったり、親族であったり、身近な人であることが多いかと思います。
株主は、株主総会などでの議決権を有しますから、オーナー株主として、企業の運営上、その他の株主は、自身がよく知っていて、話が通じる人がよいと考えるのは当然です。
この点、株式は、原則、譲渡可能となっておりますので、その他株主がオーナーの知らない別の第三者に株式を譲渡してしまうリスクがあります。
これを防ぐために、定款上、株式を譲渡制限付として、会社の登記事項証明書上、それを記載し、会社の取締役会の承認なく、別の第三者に株式を譲渡されないように対処することは可能です。
仮に、譲渡制限付き株式の譲渡を取締役会が承認しない場合、譲渡を希望する株主と会社との間で、どのような手続がなされるかについては、弊所の別のブログでもご案内したところです。
一方、株主が死亡して、株式が相続財産として相続の対象となる場合、譲渡ではありませんから、譲渡制限が付されていたとしても、株式の法定相続人への相続を防止することはできません。
このような相続を契機として、オーナー株主や会社にとって面識のない相続人が株主となることが望ましくない場合もあるかと思います。
そこで、会社法では、会社として、相続人に株式の売渡を求める手続を設けることが認められています。
本稿は、その手続について、説明していきたいと思います。
定款での定めが必要
株式の相続が発生した際、会社が相続人に当該株式の売渡を請求することができるためには、その前提として、会社の定款上、売渡請求ができる旨の定款での定めがなければなりません(会社法第174条)。
したがって、現在、定款上に、このような定めがない場合、会社としては、売渡請求を定款に定める旨、定款変更を株主総会の議案として掲げ、特別決議により承認を得る必要があります(会社法第309条第2項3号)。
なお、上述した定款変更は、株式の相続が発生する前にしておかなければならないというわけではなく、株式の相続発生後の定款変更によっても可能だという裁判例があります(平成18年12月19日東京地裁決定)。
知ってから1年以内
会社から相続人への売渡請求には、時間制限が課されています。
「株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したときは、この限りでない。」とされており(会社法第176条第1項)、会社からの売渡請求は、具体的には、会社が元の株主の死亡の事実を知った日(平成19年8月16日東京高裁決定)から1年以内に行う必要があります。
売渡請求の特別総会決議が必要
会社が相続人に株式の売渡請求をするには、売渡を求める株式数、株式を有する者の氏名・名称を明らかにした議案を掲げ、株主総会の特別決議を得る必要があります(会社法第175条第1項及び同法第309条第2項3号)。
なお、この総会において、売渡請求の相手方となる株主は、利害相反の立場となりますので、議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。
しかし、議決権行使ができないからと言って、売渡の相手方となる株主を蚊帳の外に置いてはならず、当該株主は、株主総会の召集の通知を受け、総会で意見を述べる機会が与えられなければならないと解されています。
取得財源に関する規制
相続人に株式の売渡請求をするにあたっても、自己株式取得にあたりますから、会社取得財源の規制を受けます(会社法第461条第1項5号)。
具体的に言えば、売買価格は、売買の効力発生日の会社の分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項5号)。
売渡請求後の流れ
会社から相続人に売渡請求がなされた後、会社と相続人は売買価格を協議によって定めます(会社法第177条第1項)。
しかしながら、対立する当事者などであれば、容易に話合がつくものではありません。
そこで、会社、又は相続人は、協議の有無は関係なく、売渡請求の日から20日以内に裁判所に売買価格決定の申立てを行うことができます(会社法第177条第2項)。
この申立において、注意すべきは、20日という期間制限です。
売渡請求の日から20日以内に上記の申立がない場合、株式売渡請求の効力がなくなりますので(会社法第177条第5項)、協議の有無は関係なく、上記申立の準備が進められているのが一般的です。
売買価格決定の申立てがなされた場合、 裁判所は、売渡請求時における会社の資産状態やその他一切の事情を考慮して売買価格を決定します(会社法第177条第3項)。
裁判所の決定を待たず、裁判上の和解で売買価格の合意が定まることもあるでしょう。
オーナー株主死亡時に行使されることも
上述した相続人に対する売渡請求の制度は、オーナー株主などにとって都合がよと思われがちですが、逆に、オーナー株主自身が死亡した場合に、その株式相続に対しても、売渡請求されることがあり得ます。
したがって、売渡請求の制度を導入するにあたってはよく検討する必要がありますし、同制度が定款に定められている場合、生前に予防策を取っておくことも考えられます。
当事者の合意による譲渡もあり得る
以上、説明しましたところは、会社法の売渡請求手続に基づくものですが、会社と相続人間で条件が整うのであれば、上記手続でなく、会社が相続人から自己株式取得の手続によって株式の譲渡を受けることも可能です。
相続人から買い取る場合、特定の株主から自己株式を取得する際に、その他の株主に平等に売却売却の機会を与える売主追加請求権は認められていません(ただし、相続人が議決権行使をした後は、売主追加請求権が認められます。会社法第162条)。
また、会社が第三者株主を紹介して、相続人から当該第三者に株式を譲渡させるということも、別の方法として考えられます。
※中小企業をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。