サッカーや野球などで地域のスポーツチームに所属しているお子さんをもたれる保護者の方々もいらっしゃるかと思います。
各スポーツチームの性質や規模にもよるところですが、チーム運営の責任者の人員不足などから、保護者の方が、日ごろの練習において、当番制でコーチや審判として関わったり、チームの親睦イベントなどに引率する立場として参加したりすることもあるかと思います。
また、試合会場までの足がないため、自動車を所有している保護者の方がいわゆる「車出し」をして、自らの自動車で他家のお子さんを同乗させてあげることもあるかと思います。
このような子どものスポーツチームの活動に関わっていた際に、子どもらが事故に遭うなどした場合、関与していた保護者は、無償のボランティアだったからといって、責任を免れることができるのでしょうか。
一般論として責任を負う
コーチや審判といった練習の手伝い、イベントの引率や車出しに、たとえボランティアという立場で加わっていたとしても、関わっていた保護者の側に安全配慮上の何らかの過失があり、その結果、子どもがケガなどをした場合、不法行為の損害賠償責任を負うことは十分考えられます。
例えば、コーチや審判として関わる場合は、練習や試合中に子どもがケガをしないように環境を見守り、予見可能な危険があれば、それを回避するために予防しなければならないという注意義務を負うことになります。
ボランティアとして関与している大人は、判断能力が不十分である子どもの行動に関して注意を払い、危険な事態が生じないよう対処することが求められているからです。
イベント引率中でも責任を問われた事例
また、イベントを引率するにおいて、その引率者は、イベントの実施区域の安全性など事前の調査をしっかり行い、安全監視体制を整えて事故を未然に防止する義務を負います。
これについて、具体的には、子ども会のハイキングの川遊びで不幸にも子どもが溺死した事故につき、ボランティアで引率していた人に対し、実施区域の危険性の有無を十分に調査しておく必要があるとし、監視体制を整え、事故を未然に防止すべき義務があったとして、損害賠償責任が肯定された事案があります。(昭和58年4月21日津地裁判決)。
また、少年剣道会の旅行会で、子どもが海岸での磯遊びの際に、沖に出て水死してしまったという痛ましい事故では、旅行会を主導・指導的に引率していた人に対する損害賠償義務を認めたという裁判例があります(昭和60年7月26日札幌地裁判決)。
特に、上記裁判例の次の判示は、ボランティアであろうと責任を負わざるを得ないことを明確に示しています。
「無報酬の社会的に有益ないわゆるボランティア活動であるということのみから当該活動の場で予測される危険についての予見及び結果回避に必要な注意義務が軽減又は免除されるべきであるとの結論を導くことはできない」。
このように、無報酬であったり、ボランティアであったりという事情があったからといって、責任を引き受ける形となる大人の側で注意義務を免れるということにならないのは、肝に銘じておかなければなりません。
過失相殺
ボランティアで関与したとしても、注意義務違反があれば、損害賠償義務を負うというのは止むを得ませんが、裁判例は、こういった事案においては、過失相殺という点で、損害額の減額を、ある程度考慮しているように見受けられます。
過失相殺は、事故に遭った被害者側にも何らかの過失があったから、被害者側の損害賠償請求額から何割かを差し引くというものです。
実際の事故の背景や被害者の行動などから裁判所は過失割合を認定しますが、これは、事前に割合を予測するのが難しいところで、実際、裁判になってみないと何とも言えないという不確定要素があります。
スポーツ安全保険
子どもさんが地域のスポーツチームなどに加入する際、子どもさんのみならず、保護者もスポーツ安全保険の加入が求められることがあるかと思います。
スポーツ安全保険は、スポーツ中の事故により傷害を負った場合にその損害を補償する傷害保険と、スポーツ競技中の事故により相手を受傷させた場合に受傷者の損害を補填する賠償責任保険が組み合わさったものです。
賠償責任保険には、上述したようなスポーツ活動中の指導やチームイベントの引率で賠償責任を負う場合も補填するプランがありますので、このプランを含んだスポーツ安全保険に加入しておくと、万一の場合、個人としての賠償責任を保険が負担してくれることになるので安心です。
車出しの際の自動車保険について
上述したスポーツ安全保険は、チーム活動の集合・解散場所と自宅との通常の経路往復中の事故についても補償してくれるのですが、自動車運転中の事故は対象外となっています(ただし、自らの自動車運転中のケガは傷害保険部分で補償されます。)。
そこで、車出しで、自動車運転中に、自らの過失により、お預かりしていた他家の子どもさんにケガを負わせた場合は、自動車保険で補うことになります。
細かくみると、同乗者となっている他家の子どもさんは、自動車保険の対人賠償保険が補償することになります。
一方、自動車運転中のご自身や同乗のご自身の家族の場合、対人賠償保険では補償されませんので、別途、人身傷害保険(特約)などに入っておかなければなりません。
刑事責任に問われることも
今まで述べてきたところは、民事責任に関する記述ですが、上述した事例では、民事責任のみならず刑事責任を問われることもあります。
過失により傷害を負わせた場合の過失傷害罪、死に至らしめた場合の過失致死罪、重過失による場合の重過失致死傷罪、業務性(自動車運転はこれに含まれます。)を有する場合の業務上過失致死傷罪などです。
また、傷害を負わせたことに過失がなかったとしても、傷害を負ったまま適切な処置をせずに放置などした場合、保護責任者としての義務を果たさなかったとして、保護責任者遺棄罪などの適用が検討されることもあり得ます。
このような刑事責任が問われる事態は、極めて稀ですが、前述の津地裁の民事事件の事案においては、刑事責任も問われており、2審まで争われて無罪となっております。
※スポーツをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。
「スポーツ観戦中のケガと損害賠償‐ファウルボール訴訟からわかること」