取締役や監査役など役員として会社に従事してきたところ、任期途中で、役員を解任されることがあります。
会社のために役員として職務に力を注いできたにもかかわらず、会社から解任された場合、何を求めることができるかをご説明いたします。

解任は株主総会でされる
役員を解任するためには、株主総会で、当該役員を解任する旨の議題が審議され、通常、解任を承認する過半数の総会決議(普通決議)を経る必要があります(ただし、監査役と累積投票によって選任された取締役については、特別決議が必要です(会社法第342条第6項、同法第343条第4応、同法第309条第2項7号))。
上記決議要件ですが、定款で、過半数でなく3分の2以上とするなど、解任のハードルを厳しくすることはできますが、定款でも、取締役解任決議の定足数を3分の1未満とすることはできません(会社法第341条括弧書)。
会社法の定めでは
任期途中で解任された役員としては、任期最後まで役目を全うしたかったと考えるのも当然ことです。
任期途中で解任されることで、経済的にも、役員報酬を得られなくなることになるからです。
そこで、会社法は、任期途中で解任された役員に対し、会社に対する損害賠償請求権を認めています(会社法第339条2項)。
役員の損害賠償できる範囲
役員が解任された場合に、損害賠償請求できる範囲ですが、任期満了までおよび任期満了時に得られたであろう役員等としての報酬等と考えられています。
上記で「任期満了時に」とあるものは、退職慰労金などを想定したものですが、退職慰労金については、任期満了時に受給される可能性が高くなければならないと理解されています。
請求しうる金額を単純に考えるとすると、残り任期の月数と役員報酬月額を乗じたもの、役員の退職慰労金による定めや慣行により計算しうる任期満了時の退職慰労金額などになります。
一方、途中で解任されたことに対する精神的苦痛の慰謝料であるとか、訴訟を必要としたことによる弁護士費用であるとかを加算できるかについてですが、上記会社法の条項の趣旨に含まれるかどうかは争いがあるようです。
弁護士費用については、上記条項の趣旨から請求を認めてよいという考えがあるものの、慰謝料請求については含まれないという考えが有力す。
このため、慰謝料が認められるとしても、民法第709条の一般不法行為の要件を満たす場合に限られると考えられます。
任期10年の場合
取締役の任期は、基本2年ですが、非公開会社の場合、定款によって、役員の任期を最長10年まで長く定めることもできます。
こういった長期間の定めをした場合、少ない年数で解任をしてしまうと、会社が負担しなければならない損害賠償額が極めて高額になることも考えられます。
正当な理由があれば棄却される
会社の立場から見ると、役員に不祥事があったことや不適任な事情があることから解任の手続を取ったという言い分もあるかと思います。
このため、役員からの損害賠償請求については、当該役員に法令違反行為があったなどにより、解任に正当な理由があった場合、損害賠償請求が認められません。
正当な理由としては、ほかにも、役員の心身の故障により執務に耐えられないというものもありますし、職務遂行に著しく不適任であったり、能力が欠如していたりした場合も考えられます。
もちろん、上記は、具体的にどのような状態で、どれだけ不適任であったりするのかを、客観的資料を交えて、裁判所に説明できなければ正当な理由があるとは認められないものと見るべきでしょう。
時効期間は?
判例・通説は、上記会社法の条項の損害賠償責任について、民法第709条の不法行為責任によるものでなく、法定責任であるという説をとります。
このため、消滅時効期間は5年と解釈されるものと考えられています。
なお、不法行為責任説の場合、消滅時効期間は3年と解釈されます。
時効期間の解釈の争いなどにならないよう、あまり、長期間放置するのでなく、早い段階で損害賠償請求の時効更新手続(訴訟など)を取るべきでしょう。
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