市場に出回っている上場株式では、あまり聞かないことかもしれませんが、中小企業においては、当該企業の株式名簿上の記載とは異なり、本当は誰の名義の株式であるかが争われることがあります。
中小企業においては、発行済株式総数も少なく、その株式の真の名義が誰なのかによって、株式保有割合が大きく変動することになりますから、その争いは、まさに会社の支配権をめぐる争いでもあるわけです。
会社は、会社の株主の内容に関し、株主名簿を備え置くこととなっており(会社法第125条1項)、この名簿に基づき、株主総会の招集通知を発したり、株主の議決権行使の数を決議に反映させたりします。
しかし、会社が備え置きしている株主名簿上の株主と実体の株主が異なるということは、例えば、次のようなことで起こりえます。
ある人が他人名義を借りて株式に出資をした場合が典型例です。
何らかの事情があって、他人名義として仮装する必要が会社設立当時にはあったのかもしれませんが、それが後日、支配権をめぐる争いなどにより、実際の出資者は自分であると名義借用者が主張するようになります。
また、非常に杜撰な会社では、株主名簿の管理が正しくされていなかったり、株主名簿自体が作られていなかったりすることもあります。
この場合、株式の譲渡や相続などにより、株主が変更されていても、こういった変更が株主名簿に反映されていないことがあり、後日、自分が現在の株主だと主張するようになります。
このように株主たる地位について争いがある場合、裁判上で明らかにする手続としては、株主権確認請求訴訟というものがあります。
この訴訟は、株主であるにも関わらず、株主として取り扱われない当事者が原告となり、主に会社を被告として、自らが株主の地位にあること(いわゆる株主権)の確認をするよう裁判所に求めるものです。
訴訟において、真の株主が誰であるのかの主張や立証は、様々な事情説明や証拠の積み重ねとなり、それらを踏まえて裁判所が結論を出します。
例えば、名義借りの事例では、株式を取得した資金の拠出者は誰であるのか、名義貸与者と借用者の人的関係及びその合意の内容、株式取得の目的、取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、会社との関係、名義借りの理由の合理性、株主総会における議決権行使の状況などを総合的に判断するとされています。
これらを立証するために、必要な証拠(書類など)は何かというのも、事案により様々です。
先述したとおり、中小企業においては、会社法上の手続が正しく行われていないことも多いため、資料の欠如により実体の把握が難しく、訴訟でも、混迷を深めることがよく見られます。
難しい裁判でもありますが、会社の支配権を左右することも多いため、しばしば、提起される訴訟であるともいえます。
なお、株主権確認請求訴訟の訴額(印紙代)は、株式の時価で算定します。
一株の時価は、上場株式であれば、訴え提起時における市場価格、非上場株式であれば、資本額を発行済株式総数で除したものになります。
株式数や株式の時価が大きい場合は、その訴額の負担も考慮しなければなりません。
※中小企業をめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。