スーパー店内での転倒に損害賠償義務が認められるのは?

 

 スーパーマーケットやショッピングモールといった店内で、商品などに目を奪われていたところ、足を取られて転倒というケースがあります。

 原因は、思わぬ段差であったり、雨雫やたまたま落下していた商品によるものであったり、様々です。

 こういった店内で、転倒した結果、治療を行うなどの損害を負った場合、お店に損害賠償義務が生じるのでしょうか。

 

 

 法的責任の種類

 

 店内でのお客さんの転倒に対してお店が損害賠償義務を負うのは何らかの法的責任があるからということになります。

 考えられる法的責任は、次のパターンです。

 

 ・工作物責任

 土地の工作物に設置・保存上の瑕疵があり、それにより第三者に損害が生じた場合、工作物の占有者は、損害賠償義務を負います。

 工作物に関するものということですので、通常、歩行する箇所につまずきやすい段差があるなど、そういった場合が事例としてわかりやすいかと思います。

 

 ・安全配慮義務違反

 信義則上の義務として、お店が店内の利用客の安全を配慮する義務が生じる場合があり、これを怠り、第三者が損害を負った場合、店は損害賠償義務を負います。

 

 例えば、スーパーは、商品の売買契約を結ぶ場所になりますが、これを行うにあたって、不特定多数の利用客を店内に誘因し、商品を見歩いてもらうことで購入を促して利益を上げますので、店内の利用客に対して、安全を配慮すべき義務が生じると考えられています。

 

 具体的な認容裁判例

 

 本稿では、工作物責任ではなく、安全配慮義務違反が認められるか否かについて、焦点を当てたいと思います。

 

 認容事例では次のものがあります。

 

 店舗内において、販売・宣伝用の掃除機が載せられていた台に足を取られ、転倒して負傷した事例(令和2年11月13日東京地裁判決)。

 

「本件通路を通る際には顧客が本件陳列棚の物品に目が行きやすいことや、本件通路付近は十分な広さが確保されていないこと、本件台は滑りやすい素材でできており、上のカーペット部分がはみでていて足が引っかかる危険があるものであったことなどを考慮すると、被告には、本件台に載った本件掃除機を陳列展示の定位置から移動する際に一時的に置く場合であっても、顧客が本件台に接触等しないような場所に置いて顧客の身体の安全に配慮すべき義務があるのにこれを怠った」と店の安全配慮義務違反を肯定しました。

 

スーパーマーケットで買い物をしていた際、野菜売り場の床が濡れていたため転んでけがをした事例(令和3年7月28日東京地裁判決)。

 

サニーレタスの台からの取り出しで、水が垂れることが繰り返され、床が濡れる予見可能性があるにもかかわらず、店が掃除などを怠ったため、滑りやすい危険な状況が生じたとして、店の安全配慮義務違反を肯定しています。

 

ショッピングモールで床面に落ちていたアイスクリームに足を取られて転倒した事例(平成25年3月14日岡山地裁判決)

 

「多数の客が集まり、本件事故当時も,約20名の客が行列をつくっていたこと、本件売場の飲食スペースは、机が数個、椅子が数脚存在するだけであったことが認められ、これらの事情に本件売場で取り扱うアイスクリームという商品の特性をも併せ考慮すると、本件売場でアイスクリームを購入した顧客が本件売場付近の通路上でこれを食べ歩くなどし、その際に床面にアイスクリームの一部を落とし、これにより上記通路の床面が滑りやすくなることがあることは容易に予想される」と予見可能性を肯定しています。

 

そして、「十分な飲食スペースを設けた上で顧客に対しそこで飲食をするよう誘導したり、外部の清掃業者に対する清掃の委託を閉店時間まで延長したり被告の従業員による本件売場周辺の巡回を強化したりするなどして、本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていた」とショッピングモールの運営会社の安全配慮義務違反を肯定しました。

 

 上記のような事例の判示から理解されるところは、事故が生じた現場の状況を具体的に分析し、店側に危険の予測可能性があり、その予測に基づく回避措置を店が取らなかったという論理です。

 

損害賠償義務が否定されるのは

 

 一方、否定裁判例については、スーパーマーケット内で買物をした際、同店舗内レジ前通路で落ちていたカボチャの天ぷらで転倒して負傷した事例(令和3年8月4日東京高裁判決)があります。

 

 この件、一審では、スーパー側に安全配慮義務違反ありとして、一部損害が認容されていたのですが、高裁は、「レジ前通路付近において落下物による転倒事故が生じる危険性を想定して、従業員においてレジ前通路の状況を目視により確認させたり、従業員を巡回させたりするなどの安全確認のための特段の措置を講じるべき法的義務があったとは認められない。」として、同義務を否定しました。

 

 その前提としては、諸事情から、「レジ前通路に本件天ぷらのような商品を利用客が落とすことは通常想定し難いこと」を認めていることが挙げられます。

 店側の危険に関する予見可能性を否定しているということでしょう。

 

 上記の天ぷらが落ちていた場所が通常想定し得ないという高裁の判示からすれば、仮に、天ぷらが落ちていたのが総菜売り場付近であったとすれば、利用客の取りこぼしなどから周辺床に落ちることは店としても想定可能であり、安全配慮義務違反が肯定されたのかもしれません。

 

 なお、上記高裁の判断は、最高裁に上告されましたが、最高裁は、令和4年4月21日付で上告不受理としましたので、確定されています。

 

過失相殺は考慮される

 

 店側の責任が認められるとしても、全面的に店の責任を認めるわけではありません。

 

 と言いますのも、店内の床の落下物について、多くの利用客は自ら注意をすれば、これを視認し、危険を回避することもできるからです。

 したがって、被害者側にも、何らかの注意不足があったということで、一定の過失相殺が認められ、損害が減額されるものと考えられます。

 

 なお、この過失割合については、被害者の属性(高齢者か、幼児か、若年者かなど。)、現場の状況(落下物が視認しやすいかなど。)によって、大きく変わってくるものとなるでしょう。

 

店として、どう対策するか

 

 店としては、このような事故が起こり、安全配慮義務違反を問われないために、どのようなことができるでしょうか。

 

 上記裁判例が指し示すとおり、危険の予測可能性が重要です。

 商品が落下しやすい売り場周辺であるとか、濡れやすい箇所であるとかについて、危険性があることをあぶり出し、こういった箇所について、従業員による定期的な確認を徹底したりする必要があるでしょう。

 

 また、このような安全配慮義務を尽くしていることを示すためにも、履歴づくり(マニュアルの作成保存、店内安全確認状況を日報・メモ化)が企業防衛となり、利用客の安全につながるのではないかと思います。

 

本件を弁護士に依頼すると…

 

 まずは、事故の生じた店舗に赴き、現地覆面調査などをすることもあります。

 並行的に、損害額を検討するために、医療資料を取り寄せしたりもします。

 

 ある程度、方針や証拠が固まったら、内容証明郵便にて、相手方店舗に対し、損害賠償請求の通知を行います。

 この段階では、あくまで任意の交渉です。

 

 双方、話合をしても、折り合いがつかないということであれば、調停(話合)や訴訟などの裁判手続を検討しますが、一般的には、訴訟がファーストチョイスになるかと思います。

 

 訴訟に移行するか否か、追加費用を含めて、依頼者様とご相談させていただくのが通常の流れです。

 

 訴訟となる場合、訴状を作成して訴訟申立をし、弁護士が代理人となって、期日に対応します。

 訴訟は、尋問を行うなどの最終段階でない限り、基本的に、依頼者様が期日に出頭される必要はありません。

 訴訟では、流れによっては、尋問に至る前後に、裁判所より和解のすすめがあり、和解解決することも多いです。

 

 

2022年02月02日