
ラーメン店、フレンチなどの飲食店をはじめとしたサービス産業全般では、利用者がお店やサービスの写真を掲載し、感想や批評を記述することができる●●ログといったサイトが多くあります。
また、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなどの個人のアカウントで同趣旨の投稿を広く流布させることができるようになっています。
お店の側としては、自店のサービスや特徴を、第三者が客観的に称揚したり、取り上げたりしてくれることで、いい意味での広告宣伝の役割を果たしてくれるというものですから、大変有意義なものとなっています。

しかし、投稿の対象となるのは、お店のいいところばかりではありません。
場合によっては、サービスの質の悪さであるとか、衛生状況のひどさであるとか、そういった諸々の事情についての批判的投稿というものがあることを覚悟しなければなりません。
食べ物やサービス批評サイトにおける投稿は、お店を利用したお客さんの感想や評価を記載することを目的としたものですから、お店の肯定的側面、否定的側面も自由に記述できるものでなければ、その意味をなしません。
また、SNSなどにおける投稿は、個人の表現の自由の範疇にありますから、それが、不特定多数に公開されるものであるとしても、批判的な投稿が原則否定されるものではありません。
批評サイトやSNSへのユーザーの投稿は、このような特徴を有することから、お店側としては甘受しなければならない内容と法的な責任追及ができる内容の区別がつきにくいことも多いかと思われます。
本稿では、どのようなレベルの投稿に達すれば、お店に対する誹謗中傷に相当し、法的な責任を追及する余地があるのか、責任追及するとして、どのような手段が取られるのかを考えてみたいと思います。
投稿が誹謗中傷などになるのは?
上述したとおり、お店の批評や意見の投稿については、投稿者の表現の自由があり、正確な事実に基づいた主観的意見については、当然、この範疇のものとして、正当と言えるでしょう。
確かに、「食べてみたけどボリュームが少なかった。」とか、「注文をした時の店員の接客がこういう風によくなかった。」とかいう記載については、それが事実無根であるならば別として、体験した事実に基づき個人の意見として書かれているものであるとすれば、よくあるレビューとして、目くじらを立てるものではないかと思われます。
問題となるのは、事実でないことにも関わらず、それを基に批評か意見を記載して、お店の評価を貶めたり、事実に基づくにせよ、お店の店員や店主の人格攻撃を執拗に行ったり、お店の営業を困難にするような誇張を行って過激な評価をしたりするような場合です。
上記のような投稿をしてお店の評価や売り上げが落ちることになれば、それは、お店に対する名誉棄損(具体的な事実を不特定多数に流布して社会的評価を低下させること)や業務妨害(お店の業務に支障を来す行いをすること)に相当すると言えましょう。
お店の店員や店主を執拗に人格攻撃することは、個人に対する名誉棄損や侮辱(人格攻撃された当事者の名誉感情を侵害すること)にあたります。
これらの場合、お店が誹謗中傷されたと言えるので、お店の方としては、この誹謗中傷行為に対し、店の信頼を取り戻すための行動をとったり、誹謗中傷により被った経済的・精神的損害の賠償を検討したりすることになります。
削除を求めていく
お店の誹謗中傷にあたるような投稿に出会った場合、この投稿の削除を求めることがまず考えられます。
ただ、削除を求める前に投稿や書き込みの状況を保存しておく必要があります。
削除を求めるだけが目的ではなく、加害者の特定や加害者への損害賠償請求を考えているのであれば、どのような記載がされたのかを客観的に証明する必要が出てくるからです。
削除されてしまった後では、その内容の再現ができませんので、削除を求める前にスクリーンショットなりで証拠保存しておきましょう。
削除の要請は、加害者が特定でき、直接連絡が取れるものであれば、加害者本人に求めたりするのが早いです。
削除要請から入るのではなく、記載している事実の訂正や修正を求めるということもあるかもしれません。
サイトやSNS上で、お互いの意見を公開でやり取りする方法もあるでしょう。
ただし、削除を求める相手の性質によっては、更に誹謗中傷を繰り返す場合もありますので、加害者本人に直接削除を求めるかは検討を要します。
削除の要請に加害者本人が応じない場合や、加害者本人に依頼することでトラブルが拡大しそうな場合は、サイトの管理者やサーバーの管理者に削除要請をしてみることが考えられます。
この辺の手法については、以前掲載したブログの方で紹介していますので、参考にしてください。
しかし、上述したとおり、お店のサービスなどに対する批評や批判には表現の自由が認められますから、お店や店員の誹謗中傷、名誉棄損や業務妨害に明確に相当するようなものでないと管理者による削除は難しいかもしれません。
損害賠償請求や謝罪広告請求
次に、削除するのみでは、損害の回復に足らない場合は、書き込みや投稿をした相手に対し、財産的損害や精神的損害の賠償請求を検討します。
財産的損害については、悪意ある書き込みや投稿により、客足が遠のき、売り上げが激減した場合の失った利益(逸失利益)が想定されます。
精神的損害については、人格攻撃をするような書き込みや投稿により店主や店員が精神的苦痛を受けた場合の慰謝料が想定されます。
なお、上記精神的苦痛は、個人の場合に関するもので、原則、お店そのものには精神的苦痛というものは発生しません。
しかし、法人としてのお店を名誉棄損した場合、経済的損害には含まれることのない金銭的評価可能な無形の損害が観念しうるとして、法人にも、慰謝料に似たような賠償が認められる場合があります(昭和39年1月28日最高裁判決)。
損害賠償請求の難しさ
損害賠償の請求にあたっては、①加害者の特定の問題、②加害行為と損害の因果関係、③損害額の立証の問題が大きなハードルです。
①について
匿名で行われることも多い、ネットやSNSの投稿では、加害者本人の住所も名前もわからないケースが多々あります。
この場合、加害者を特定するためには、限られた時間の中で、難しい裁判手続を繰り返す必要が出る場合もあり、その困難さ、手続遂行にかかる費用負担の問題で、断念せざるを得ないこともよくあります。
この手続の困難さについても、以前掲載したブログでお伝えしたとおりです。
②について
加害行為と損害の因果関係については、誹謗中傷の投稿等により、客足が遠のいて売り上げが減ったという因果の流れを、損害賠償請求する側が立証しなければならないということになります。
実際の売上減がその投稿からであると説明できなければ、請求は認められません。
上述は、経済的損害に関する話ですが、精神的損害については、比較的、因果関係は認められやすいかと思います。
③について
損害額の立証の問題は、実際に生じた売上減が客観的に説明できるかの問題です。
過去の毎月の売上の資料と減少した月の売上を比較することで立証することが考えられますが、あくまで推測ベースの立証なので、どこまでの減少を裁判所に肯定してもらえるのかという問題もあるでしょう。
謝罪広告が認められることも
名誉棄損に該当するケースは、適切な方法での謝罪広告を求めることが認められています。
ネット上での誹謗中傷による名誉棄損には、ネット上での謝罪広告を請求することも考えられます。
極めて悪質な場合は刑事告訴も検討
名誉棄損や業務妨害は、刑事上の犯罪にあたる場合もあります。
極めて悪質であれば、警察に被害届を出すなり、告訴を行うことも検討されます。
※インターネット上の誹謗・中傷などのトラブルをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。