いわゆるパブリックドメインについて

 

 パブリックドメインという言葉については、一般の方でも、よく耳にするのではないでしょうか。

 今回は、このパブリックドメインの内容について、触れてみたいと思います。

 

 楽曲や、小説、絵画など、思想・感情を創造するものには、著作権が著作者の権利を保護しています。

 大雑把に言うと、著作者は、著作物の利用や譲渡などにつき、コントロールする権利を有していて、これを第三者が勝手に利用したり、改変したりして侵害を行った場合、著作者は、その侵害行為の差し止めを求めたり、損害賠償を請求したりすることができます。

 

 

著作権の保護期間

 

 しかし、著作者の権利を永遠に認めてしまうのは、文化的価値のある著作物の第三者利用を過度に制約してしまい、文化の発展を阻害することにもなります。

 そこで、著作権法は、著作者の著作権の保護期間を制限することとしました。

 

 保護期間の範囲については、著作者が団体であるか個人であるか、著作者が共同であるか、著作者が有名義で発表したか、無名・ペンネームかによって、異なります。

 最も典型的な有名義・個人では、著作者の死後70年まで、著作権が保護されることになります。

 また、共同の場合の著作権は、共同の著作者の中で最後に死亡した人の死後70年まで保護されます。

 

 なお、著作権法は、かつて、保護期間を死後50年までとしていましたが、近年、改正され、死後70年までに変更となりました。

 昭和42(1967)年までに亡くなった著作者の著作物は、改正された著作権法の施行前に50年の保護期間が切れるため、改正著作権法の影響を受けません。

 一方で、昭和43年(1968)年以降に亡くなった著作者の著作物は、70年の保護期間の改正著作権法の適用を受けることになります。

 わずか1年の違いで大きな差です。

 

保護期間を過ぎると

 

 上述した保護期間をすぎると、著作物は、公共の利用に供され、利用に関しても、第三者が自由に行えることとなります。

 こういった著作物がパブリックドメインと呼ばれています。

 

 このため、著作物の著作権が保護対象かどうかを調べるには、まず著作物の著作者の死亡年(死後70年の起算点は、著作者死亡の日の属する年の翌年とされているため(著作権法第57条)、死亡年がわかれば、起算点が判明します。)を調べることが有効です。

 

著作者人格権の保護期間は

 

 厳密にいうと、著作者が有する権利は、演奏権、頒布権、譲渡権、複製権などといった財産的権利性を有する「著作権」と、同一性保持権、氏名表示権、名誉声望保持権などといった人格的権利性を有する「著作者人格権」に分けることができます。

 

 このうち、著作者人格権は、著作者個人の人格から発生するもので、その権利は、著作者個人に一身専属して、譲渡性もなければ、相続されるものでもありません。

 

 したがって、著作者人格権の方は、著作権と異なり、著作者が生存している間だけ、保護されることになるのですが、だからといって、死後、どのようなことをしてもよいというわけではなく、著作者が生存していたら、著作者人格権の侵害にあたるような行為はできないことになっています(著作権法第60条)。

 

 例えば、著作物の著作者の氏名を勝手に変えるだとか、著作物を極端に侮辱して改変するような行為は認められないと考えられます。

 

海外著作物の日本における保護期間

 

 国内の著作物については、上述した理解でいいのですが、海外の著作物については、配慮が必要です。

 

 著作権については、条約の締結により、海外の著作者による著作物も保護するように取り扱うことにしています。

 

 しかし、著作権の保護期間については、各国の法律で、著作権の保護期間が設定されており、日本と同様の保護期間でない国もあります。

 この場合、海外の著作物の著作権の保護期間は、何年になるのかという問題が生じます。

 

相互主義による例外

 

 この点については、条約上、海外の著作物についても自国民と同等以上の保護を与える内国民待遇の原則があります。

 そこで、条約締結国である海外国の著作物の日本における保護期間は、現行法上、日本の著作権法と同じ70年というのが上記原則によるところです。

 

 ただ、そこには、更に相互主義というものがあり、海外の著作物の本国の保護期間が日本の保護期間より短い場合、例えば50年であれば、海外の著作物の日本での保護は50年で足ります。

 逆に、日本の著作物の日本における保護期間は死後70年ですが、上記海外の国内において、日本の著作物は、死後50年までしか保護してくれません。

 

戦時加算による例外

 

 また、戦時加算というものに注意しなければなりません。

 

 戦時加算とは、大まかに説明すると、日本が第二次世界大戦中に、相手方連合国の海外国民の著作物の保護を行わなかったことへのペナルティのようなものです。

 戦争開始から相手方連合国各国とのサンフランシスコ講和条約が発効するするまでの期間を連合国各国の著作物の保護期間に加算することとしました。

 

 したがって、日本における海外著作物の保護期間は、上述した戦時加算期間を加えたものになるので、注意が必要です。

 

 今から75年も昔の敗戦による影響が現在の著作権に及んでいるというのは、少しノスタルジックな思いを感じますね。

 

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2020年01月31日