名ばかり取締役と残業代未払

 大手進学塾が塾講師を取締役として登記することにより、残業代の支払を免れようとしていたのではないかという報道がありました。一昔前、マクドナルド等で、名ばかり管理職の問題が耳目を集めていましたが、今回は、取締役の登記まで進めたものが問題となっています。

 

 取締役は、経営者サイドにあたりますので、通常の従業員のように残業代の支払を求められる立場にありません。これは、自らが、経営する立場にあることや、法人そのもののとは労働契約関係でなく委任契約関係にあり、法人から指揮監督や管理される立場にないことによるものです。

 

 しかしながら、取締役として登記されながら、事実上は、従業員同然であるにも関わらず、残業代の支払を無しとしようとしていたとすれば、取締役としての役職は名ばかりにすぎず、さかのぼって残業代の支払義務を負わなければならないのは当然でしょう。

 

 記事によれば、今回の塾を経営する法人の商業登記簿上、400人以上の取締役の登記がなされていたということで、大手とは言え、こんなにたくさんの取締役の登記を行うのは客観的に見ても異常な状況と言わざるを得ません。

 ちなみに、あるメガバンクのホームページの会社概要で、取締役の数をカウントしてみても24人しかいませんでした。

 

 名ばかり管理職よりも名ばかり取締役の扱いが悪質であるのは、取締役として登記されることにより、登記された本人は、会社法上、取締役としての法的責任を負わされる可能性があるという点です。

 取締役は、事案によっては、法人が損害を与えた第三者に対する損害賠償義務を負いますから、法人の経営サイドとして、外部からは極めて厳しい目で見られてしまいます。

 単なる従業員が、会社の圧力により、取締役としての就任を強いられるとしたら、これは酷な扱いです。

 

 残業代については、名ばかり取締役であると認められれば、通常、2年間(賃金の消滅時効が2年とされています。)さかのぼって請求されるとともに遅延損害金も加算されます。

 訴訟になった場合、未払賃金と同額の付加金(この場合支払額は倍になります。)を課されることも考えられます。

 

 私自身も、労働の法律相談で、管理職だが些少の手当が出るだけで、過重な残業をしているとか、職務内容には裁量がないといった話があって、残業代を請求する事件を受任することもあります。

 したがって、逆に、企業サイドとしては、安易な残業代逃れを考えるのでなく、普段から、適正な労務管理に努めるのが、身を守る最良の策だということになります。

 

2017年07月05日