芸能人はなぜ芸名でもめるのか。

 ゲレンデの恋の歌で有名な女性歌手が、長年所属した事務所から独立することに対し、所属事務所側が芸名の使用禁止を求めるというニュースがありました。

 事務所移籍や独立の際、芸能人と事務所がトラブルとなり、芸名の変更を迫られるということが過去に何度も起こっています。

 なぜ芸能人の芸名はもめるのでしょうか。

 

 

芸能人は、投下資本の成果物?

 

 芸能人については、通常の職業と異なる特殊性がみられます。

 芸能人は、芸能人として成功する前には、通常、売れない時期がありますし、芸能のスキルが身についているわけでもありません。

 

 このため、芸能事務所は、売れる前の芸能人と専属契約を結び、芸能人がスキルアップするようレッスンを提供したり、プロモーションをしたりして、芸能人個人の価値を高めるよう多額の資本を投下していきます。

 

 この資本投下が実り、芸能人が売れるようになれば、芸能事務所は、CM契約、ドラマ契約、CD契約など(果物が熟して収穫を得られるイメージで、いわゆる成果物といいます。)から、ペイバックを受けて、投下した資本の回収を図り、それを超えた利益を享受し、経営を行っていきます。

 

 このように、契約事務所としては、売れたとたん、芸能人に芸能事務所から出て行かれてしまうと、投下資本の回収がおぼつかないことになるので、おいそれと独立や移籍を認めるわけにはいかないのです。

 

一定の縛りは有効と見られる

 

 芸能事務所としては、契約時から、芸能人が勝手に独立や移籍をしないように対処を考えます。

 この対処策として、どのような契約内容にしているのでしょうか。

 

 まず、専属契約は、契約期間が定められていて、これで縛りをかけています。

 また、契約終了後、何年間か、芸能活動を行わないとか、他の事務所に所属しないとかいった条項が通常セットにされています。

 期間途中で辞めようとする場合、違約金だとか、レッスン料などの今までの投下資本の返還を求めるといった損害賠償の条項が付されている場合もあります。

 これらの縛りは、一定の範囲であれば、有効と見られていますので、心理的に、芸能人は、所属事務所から出づらくなっています。

 

 もちろん、契約期間だとか、契約終了後の芸能活動禁止期間だとかが長年にわたる場合であれば、憲法で定められた職業選択の自由に抵触することになります。

 したがって、合理的な範囲を超える定めは無効とされるでしょう(芸能活動禁止期間につき、東京地方裁判所平成18年12月25日判決は、2年の禁止期間の定めを無効としました。)。

 

芸名の使用禁止の契約条項はどうか

 

 芸能人を事務所に止めるため、契約期間の満了後であっても、所属事務所を出る場合、芸名の使用を禁止するという条項が契約に付されている場合もあります。

 

 ただ、芸名の使用禁止については、過去20年以上さかのぼると、皆さんもご存知の有名俳優のトラブルがあり、この際、東京高等裁判所は、芸能事務所による芸名の使用禁止は認めないという判決を出してます。

 また、平成30年2月の公正取引委員会の検討結果報告書によるところ、独占禁止法上、発注者(芸能事務所)が役務提供者(芸能人)の権利や成果物を独占することは、問題があると指摘しています。

 

 したがって、事実経緯や契約内容にもよりますが、芸名の使用禁止の契約条項自体が、独占禁止法違反として無効になる可能性が十分にあります。

 

商標権の問題

 

 芸能人は、芸能事務所から独立する際、今までの芸名を自由に利用出来るのかという論点には、もう一つ商標権の問題があります。

 商標権は、権利者が商標登録することにより、その商標を商品等に独占的に利用できるという権利です。

 

 芸能事務所によっては、所属芸能人の芸名を商標登録して商標権を取得している場合もあります。

 商標権登録されていると、芸能人本人は、その芸名を使って商品等の販売が出来なくなります。

 反して用いてしまうと商標権侵害として、差し止めを求められたり、損害賠償を請求されたりすることが考えられます。

 

 このように、芸名が所属事務所により商標登録されてしまった場合、芸能人が独立や移籍以降に、今までの芸名を用いて芸能活動が継続出来るかどうかは難しくなります。

 もちろん、登録が無効であるとか、先使用権があるとか、いろいろな対抗策もありますが、大きな争いとなってしまいます。

 

当初の契約内容は重要

 

 以上のとおり、過度な制約は無効になる可能性はありますが、芸能人と芸能事務所が当初に行う契約内容は後に極めて重大な影響を与えるものです。

 したがって、最初に芸能事務所と契約する際、心がはやるでしょうが、芸名をどのように取り扱うのかという点をはじめ、契約条項を精査した上で契約をするのがトラブル予防の第一歩になるかと思います。

 

 

2018年06月13日