
インターネットが普及したため、世界中のどんな人でも情報発信を行うことができ、掲載した情報は、どんな人からも目にすることができる便利な世の中になりました。
ポケベルや携帯電話が普及しはじめた30年くらい前から比較すると、隔世の感があります。
このように便利な世の中になった反面、よく相談としてあがるのは、ネット上で、第三者による誹謗・中傷の書き込みがされて困っているというものです。
実際のところ、どのような対処がされているのでしょうか。
証拠保存する
まずは、誹謗・中傷の書き込みがなされていることを証拠化しておくのが必要です。
損害賠償請求をするにせよ、後述する削除請求や発信者情報開示請求などの裁判をするにせよ、証拠の提出が不可欠となるからです。
紙にプリントアウトするなり、プリントスクリーン機能でデータ化するなり、写真撮影するなり、いくつかの方法がありますが、文面だけでなく、投稿されているページの「日時」、「URL部分」、「投稿者名」が明確に表示されるよう注意しなければなりません。
削除依頼を試みる
誹謗・中傷された場合に主に行うべきことは、書き込みされたものの「削除」であり、そして、「加害者の特定」です。
前者の削除は、加害者がハッキリしているのであれば、書き込みをした加害者そのものに、書き込みの削除の申入をすることもできます。
しかし、加害者がわからない場合や加害者がわかっていても自発的に削除してくれない場合、まずは投稿されたサイトの管理者などに削除依頼を試みるしかありません。
削除依頼の申請について
書き込みは、サイトなどを通じて書き込みがされることが多いです。
そこで、これらの「サイトの管理者」やサイトのデータが保存されている「サーバーの管理者」に対し、削除依頼の申請をするのが手っ取り早い方法です。
提供されているお問い合わせフォームやお問い合わせメールアドレスがあれば、これを用いて、削除を求める形があります。
また、一般社団法人テレコムサービス協会(情報通信関連事業者が会員として登録している協会です。)の提供する「送信防止措置依頼書」というものを利用して、サイト管理者等に削除依頼を郵送する方法があります。
一般的に、弁護士が被害者から依頼を受けるのは、この段階からが多いのではないかと思います。
いずれにせよ、サイト管理者等が削除依頼に応じるかどうかはやってみないとわかりません。
サイト管理者等が削除依頼に応じない場合、「削除を求める仮処分」の裁判を申し立てたりしなければなりません。
発信者情報の開示を求める
削除とは別に、加害者に対する損害賠償を考える場合、加害者が特定できていなければなりません。
しかし、投稿者が匿名化されていることも多く、加害者が特定できないこともあります。
この場合に用いるのが、「発信者情報の開示請求」です。
発信者情報とは、IPアドレス、タイムスタンプ、住所氏名など、投稿者を特定する情報になります。
このうち、サイト管理者等が利用者の住所氏名といった個人情報を有していない場合は、当然、IPアドレスやタイムスタンプしか開示を求められません。
IPアドレスやタイムスタンプの開示を得られても、これだけでは加害者の特定が出来ませんから、IPアドレスによって判明する加害者が投稿の際に利用した「インターネットサービスプロバイダ」に対し、契約者(加害者)の住所氏名を開示してもらうという一手間が更に生じます。
発信者情報の開示を求めるにも
発信者情報の開示請求の具体的方法については、上述したテレコムサービス協会の提供している書式を用いて、サイト管理者等に対し、情報開示を求める任意の方法があります。
しかし、サイト管理者やプロバイダは、開示要請に対し、発信者又は契約者に意見照会することとなっており、加害者が開示に不同意とすれば、情報の開示がされません。
結局、このような場合、上記の削除依頼の場合と同様、発信者情報開示の仮処分の申立や訴訟が必要になってきます。
過去ログ保存の重要性
なお、インターネットサービスプロバイダは、特に、請求がない場合、書き込みの時から3か月程度で「IPアドレスやタイムスタンプに該当する利用者が誰であるのか」といった情報が含まれているアクセスログを削除してしまいます。
そこで、問題の投稿に利用されたインターネットサービスプロバイダが判明次第、同プロバイダに対し、過去のアクセスログを保存するよう申し入れたり、申入れに応じない会社であれば、過去ログの削除禁止の仮処分を申し立てたりしなければならない点は、注意が必要です。
具体的な発信者情報の開示訴訟
サイト管理者等に対する発信者情報開示請求により判明したIPアドレスやタイムスタンプは数字の羅列ですから、これだけでは投稿した加害者がわかりません。
そこで、投稿者が問題の投稿を行った際に利用したインターネットサービスプロバイダに対し、IPアドレスやタイムスタンプを基に、具体的氏名や住所の開示を求めます。
求めると言っても、これは、個人情報にあたるものですから、上述したとおり、インターネットサービスプロバイダは該当する加害者に意見照会を行います。
この照会に同意する加害者は普通いませんから、結局、不開示となると、具体的な発信者情報の開示請求訴訟をせざるを得ません。
この裁判は仮処分でなく本訴で行います。
そして、損害賠償請求へ
こうして、ようやく判明した加害者に対しては、慰謝料や営業損害の損害賠償請求(加害者特定のために要した一定の範囲の費用も損害賠償に含めることができます。)を行うことになります。
ネット上の誹謗・中傷は、加害者が匿名化された形で行われることも多いと思いますが、これに対して、被害者側が加害者を特定するためには、非常に労力や費用がかかることになってしまうのは辛いところです。
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※インターネット上の誹謗・中傷などのトラブルをめぐる法律問題に関する別のブログは次のとおりとなります。
併せて、ご閲覧下さい。
「ツイッターのリツイートをめぐる怖い判例」
