新制度‐金融機関への情報取得手続

 令和2年4月から民事執行法の大きな改正規定が施行されています。

 新型コロナウイルス騒ぎに巻き込まれたため、施行開始時期前後に報道等はあまりされていないようでしたが、重要な改正となっています。

 

 今回の民事執行法の改正の目玉は、判決などの債務名義を得た債権者が強制執行を行うにあたり、裁判所を使って、事前に執行先を調査する手続が盛り込まれた点です。

 

 債務者に裁判をして判決などを得ても、債務者が自発的に支払をしなければ、債務者の財産に対する強制執行手続を取らなければなりません。

 しかし、債務者がどのような財産を有しており、どこの財産に執行すべきかについては、債権者側で調査する手段というのが、今まで限定されていました。

 

財産開示という制度はあったが

 

 裁判所を使った手続として、改正前から、財産開示手続というものが設けられていましたが、これは、裁判所から債務者を呼び出してもらって、裁判所で、債務者自身の財産の有無を審尋するものでした。

 財産開示手続の不出頭や虚偽の陳述には制裁があるものの、債務者自身に問い質したところで、正直に財産の在りかを回答することは現実的に望めないことが多く、その実効性に疑問がありました。

 

弁護士照会の限界

 

 債務者の財産の執行先として思いつかれるのが、銀行などの預貯金口座、勤務先の給与、不動産などですが、債権者(及び代理人弁護士)が調査する手段としては、今まで、弁護士会からの23条照会による金融機関の全店照会くらいで、対象となる金融機関も限られていました。

 

 そこで、今回の改正は、上記のメインターゲットとなる財産に対する調査について、各種要件を充足する必要がありますが、門戸を開くものとなっています。

 本稿では、上記のうち、要件上、最も広い債権者が利用しうると考えられる銀行などの預貯金口座に対する情報取得手続について、その内容と有効性をご説明したいと思います。

 

銀行などの差押は支店の特定が必要

 

 債務者の預貯金口座を差押したいと思いましても、そもそも、債務者がどこに預貯金口座を有しているかを債権者が把握しなければなりません。

 しかも、差押の実務上、債権者は、銀行ごとに差押申立をすれば足りるのではなく、どこの銀行のどこの支店かを特定して差押をする必要があります。

 

 このため、債務者の口座情報がない場合、債権者は数ある金融機関の更にそのうちの多くの支店の中から、そのどこかに債務者の口座があるとして、差押申立を行わなければなりません。

 今までは、口座情報がない場合、縦断爆撃的に、債務者の住所近辺の金融機関の支店を複数選択し、あるかないかはわからないまま、博打のように差押申立をすることもよく行われていました。

 

 しかし、債務者は、過去の住所地であるとか、勤務先近辺などで、口座を作っていることも多く、現在住所地の金融機関支店に対する差押を敢行しても、空振りに終わることも多かったのです。

 

 その後、上述したとおり、大手都市銀行が弁護士会の23条照会による全店照会の回答に応じるようになって、一部、事前調査が可能となりましたが、それにしても、全ての金融機関が応じるというものではありません。

 また、弁護士法に基づく23条照会ですから、弁護士に依頼するのが前提で、債権者本人のみではどうしようもありませんでした。

 

 

新制度の情報取得は全ての金融機関を対象に


 そこで、今回施行された情報取得ですが、裁判所を通じて、預貯金口座を有するすべての金融機関に対して全店照会をすることが可能となりました。

 

 情報取得申立に対して、裁判所が情報取得を認める決定を出すと、申立の際に調査対象と設定した金融機関に、情報取得決定通知が送付され、各金融機関は、2週間以内を目途に、債務者の預貯金口座の有無と、口座がある場合はどこの支店にあるかを回答することになっています。

 その回答内容ですが、金融機関の調査日時点で幾らの残高があるかまで回答してくれます。

 

 債権者は、各金融機関からの回答を得て、債務者がどこの金融機関のどこの支店に預貯金口座を有するかを把握し、続けて、ピンポイントに差押申立をすることがきるようになります。

 

 なお、銀行の預貯金以外に、債務者の株式を管理していないかを証券会社に調査することも可能です。

 

 こういった差押前の調査は、闇雲な差押による無駄を大幅に省いてくれますし、数百円しか残高がないところではなく、大きな金額が残っているところに絞って差押をすることができるので、情報取得手続は、非常に有効な制度ではないかと感じています。

 

情報取得手続の注意事項


 このような債権者の回収に有意義な情報取得手続なのですが、用いる際には、注意しておかなければならない点があります。


 費用がかかる

 まず、情報取得申立自体に費用がかかることです。

 一金融機関あたり、2000円程度の調査にかかる手数料や各金融期間への決定書等の郵送料を取られるため、その費用を事前に裁判所に収めないといけません。

 調査となると、いくつかの金融機関を調べたいと思うものですが、あまりにも増やし過ぎると、その分、手続にかかる費用も増えていきます。

 

 情報取得と差押の二度の手間がかかる

 情報取得手続は、あくまでも情報取得のためのものであり、差押ではありません。

 したがって、債権者が回答を基に、改めて、後日、差押申立をすることになりますが、これにも手間や手続費用がかかります。

 

 回答時点の残高が保障されるものではない

 差押決定が出て、金融機関に差押決定が送達された時点での残高が差し押さえられるものですので、情報取得の回答から差押決定の送達までに相当のタイムラグが生じるのは不可避です。

 その間に、債務者が入出金するかもしれませんので、場合によっては、残高が減っていることもあり得ます(一方で、情報取得の回答よりも残高が増えていることもあり得ます。)。

 

 また、情報取得の回答は、債務者の預貯金口座の有無や残高を回答するもので、その口座のある金融機関に対し債務者がローンなどの債務(消極財産)を負っているかどうかを回答するものではありません。

 したがって、残高があるものと思って差押をしても、金融機関が債務者に有する債権と相殺するから払えないという結論となるかもしれません。

 

 債務者本人に通知が行く

 この手続、情報取得がされたことを債務者本人にも通知する制度設計となっています。

 もちろん、情報取得決定がされてすぐに通知するのでは意味がないので、調査対象となった金融機関の回答のうち最後のものが裁判所に届いてから1か月後に通知するという運用です。

 

 債権者は、この1か月の間に、差押申立をして、差押決定を得て、金融機関に差押決定を送達させることができなければ、事実上、債務者は、事情を察知して、預貯金を引き出してしまうことでしょう。

 

 この点については、上述した弁護士会からの23条照会であれば、債務者本人に通知がいくことがないので、どちらの調査方法を用いるべきか、事案を踏まえて考えながら、やっていくべきかと考えています。

 

※弊所では、情報取得手続と預貯金差押手続の事務処理も行っております。

 ご依頼をお考えの方は、次の費用のページをご参考ください。


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2020年10月20日